文章の読み方
大学では、本(書籍)や論文など、それなりの長さがあって入り組んだ文章を読む機会が増えます。そのうち脳に直接データをインストールできるようになれば話は別ですが、基本的に人間は文章を読むことでしか知識を習得することはできません。よって、出来るだけ多くの文章を効率良く読む必要があります。
文章を読む基本
大量に読む
読むことに限らず、勉強もスポーツと本質的にはあまり違いがありません。練習を繰り返すことで、だんだんスピードや技量が上がっていきます。また、人間は慣れ親しんだことを行うほうが馴染みがないことをやるよりも気が楽なものです。よって、文章を読む能力を向上させ、そもそも読む気になりやすくするには、結局のところ多くの文章を読むしかありません。
目安として、いわゆる文系の学生は、大学卒業時には
- 学術論文は1週間で1本
- 新書や文庫程度は1週間で1冊
- 専門書や外国語の本は1ヶ月で1冊
くらいのペースで読めるようになると良いと思います。これは決して不可能な目標ではありません。
パラグラフ・リーディング
長い文章はいくつかに区切って書くのが普通です。形式的には1字下げて書きはじめたり、1行空けて書くことがあります。こうしたまとまりのことを段落(パラグラフ paragraph)と言います。なお、文章の始まりから句点(。)までが一文です。
文章を読む上では、段落を意識して読むのが重要になります。段落の最初の一文は段落のまとめになっていることが多いからです。特に英語の文章の場合はそうすることが推奨されているので、段落の最初の一文だけつなげて読めばその文章の要約になっていることすらあります。
目次や見出しを活用する
目次や見出しは筆者自身が用意した要約ともいえます。長い文章を読むときは、とりあえず目次を手がかりにすると良いでしょう。
目次では、章や節、小見出しに一言添えられていることがよくあります。例えば、ある本で「第1章 僕らはどうして、『ここ』に流れ着いたのか」という章題があったとしましょう。これを見て、そもそもいくつかの疑問が湧くはずです。
- 「僕ら」とは誰なのか?
- 「ここ」とはどこなのか?
おそらく第一章のどこかには、この問いへの答えが書かれているはずです。その答えが、例えばレジュメで書くべきこと、発表で述べるべきことになります。このように、まず章題等を検討して、分からなければその答えを文中に探してみるとよいでしょう。
もう一つのコツは、目次を疑問文にしてみることです。例えば、ある本のある節に「シビアな時代のタイムリミット」という小見出しが付いているとしましょう。これを、「シビアな時代のタイムリミットとは何か?」と読み替えるのです。もちろん「シビアな時代」がいつで、何が「タイムリミット」なのか、がその節のどこかには書かれているはずです。その記述を探し、できれば自分への答えのような形で抜き書きすると良いでしょう。
これを繰り返せば、少なくとも文章の個々の部分において著者が何を言いたかったのかが分かってきます。後はそれをまとめて集約すれば、その章なり本なりで著者が言いたいことが見えてくるでしょう。
文章を読むコツ
文章を読むにはいくつかポイントがあります。
主語と述語を常に確認する
「誰が」(主語)「何をやっている」(述語)を常に念頭に置いて文章を読みましょう。慣れないうちは、案外このあたりで混乱するものです。
5W1H
いわゆる5W1H、
- When:いつ
- Where: どこで
- Who: だれが
- What: 何を
- Why: なぜ
- How: どのように
は、文章を読む上でも常に重要です。例えばその文章は、現代の話なのでしょうか、中世の話なのでしょうか、あるいは古代の話なのでしょうか?漫然と文章を読んでいると、意外に勘違いすることがあります。もちろんどの文章からも全て読み取れるわけではありませんが、常に念頭に置いて文章を読みましょう。
著者の「言いたいこと」を見出す
皆さんが書くレポートなど、教員からテーマが与えられる大学の課題等とは違い、一般の著者は何か自分が主張したいこと、すなわち「言いたいこと」があるので文章を書きます。 筆者の主張は、最初に概要(アブストラクト abstract)やエグゼクティヴ・サマリーとしてまとめて書いてあることすらあります。
本にせよ何にせよ、「言いたいこと」を骨とし、それにいろいろ肉付けして書かれているわけです。長文でも、結局のところ「言いたいこと」が複数あるか、「言いたいこと」の根拠付けが複数あるかに過ぎません。よって著者の「言いたいこと」をさっと読み取れないと、内容もよく分からないし、そもそも読んでいてつまらないということになります。慣れるまではなかなか難しいかもしれませんが、筆者の主張は最優先で読み取りましょう。
「言いたいこと」の妥当性を根拠から検討する
もちろん著者が「言いたいこと」を鵜呑みにしてはいけません。「言いたいこと」が分かったら、今度は著者がそれにどのような理由付け、根拠を与えているか探してみましょう。それを見ながら、「言いたいこと」が妥当かどうかを検討するわけです。文章は主張と論拠の対応関係を軸に読みましょう。
何度か読む、抜き書きする
文献は、一度読んだだけではなかなか理解できないものです。それに、一度読んだだけで100%理解しようと気張ると疲れてイヤになってしまうことがあります。むしろリラックスして何度か読み直すと、初見では見落としていたところが見えてきます。よって、文献は最低2回は読むべきです。2回目に読むときは、特に重要なところ(赤や緑の線を引いた部分、あるいは定義など)をノートやコンピュータで抜き書きするのもよいでしょう。抜き書きするときは、出所がどこか明記しておかないとすぐ忘れてしまうので気をつけましょう。
読み書きのスピードを測る
機会があれば、自分の読み書きのスピードを測ってみると良いでしょう。例えばやさしい文庫本(ライトノベル等)、難しい文庫本、新書、専門書などと対象を変えて、1ページ読むのに何分かかるか測ってみるのです。また、書くほうもA4 1ページに何か文章を書くのに何分かかるか測ってみましょう。どちらも10ページほどやった上で平均を出すと良いでしょう。
読書の時間をつくる
バイト等が忙しくてなかなか本が読めないという人もいるでしょう。大学生なので学業最優先なのは言うまでもありませんが、どうしても本を読む気になれないという人は、通学時間や寝る前、日曜の夜、といったようにあらかじめ読書の時間を決めてしまい、手帳等に書き込んでおくとよいでしょう。その時間はとにかく本を広げて、頭に入ってこなくてもページを眺めるのです。わずか1時間でも、毎日なら月に30時間、週一でさえ4時間が確保できます。継続していれば、だんだん読めるようになってくるものです。
学術論文を読む
学術論文を読む際には(実際には論文に限りませんが)、特に気をつけることがあります。それは、その論文だけを読むのではなく、(先行)研究史においてその論文がどのような位置にあるのかを意識して読み広げていくということです。
「巨人の肩に乗る」(ニュートン)と言われるように、学術研究は先行研究の積み重ねの上に成立します。先行研究を踏まえていない「文章」は思い出話やエッセイであって、学術論文とは認められません。卒業論文や修士論文も、学術論文である必要があります。
論文を読む上でまず重要なのは、リサーチ・クエスチョン(RQ)は何なのかということです。その論文は何をどのように分析し、どう明らかにしようとしているのかを理解する必要があります。
その上で論文は、
- 分野としての起点はどの論文か
- 直接「親」となる論文はあるか(その論文はある研究を拡張した等)
- その論文のテーマについて、他のアプローチはどのようなものがあるか(理論モデルを作成した、実験した、アンケート調査を行った、など)
を常に意識して読んでください。
良い論文であれば、冒頭のイントロダクションにこの種のことがまとまっているはずです。イントロダクションに挙げられた先行研究論文は、基本的に全て読むようにしましょう。
線を引きながら読む
文献は、ただ読むのではなく、適当に線を引きながら読むと記憶に残りやすいものです。しばらく経って読み直すときに線が引いてあれば、初めて読んだ時に自分が何を考えていたのか記憶をたぐり寄せる手がかりにもなります。鉛筆やシャープペンシルで単なる黒い線を引いても構わませんが、色ペンを使って、あらかじめ決めたルールに従って色を使い分けるとさらに良いでしょう。
多色ペン
最近では三菱、パイロット、ぺんてる、トンボなどさまざまなメーカーから良い多色ボールペンが出ているので、好きなものを買うと良いでしょう。コンビニや駿大ショッピングセンターにもいくつか在庫があります。赤、青、緑、黒と4色あると便利です。もちろん、バラで各色一本ずつ持っていても構いません。消せるボールペンのフリクションも多色バージョンがあります。
借りた本に線を引いてはいけない
当然のことだが、図書館や他人から借りた本に線を引いてはいけません。フリクションのような「消える」ボールペンも、単にこすれば色が透明になるというだけでインクは残ります(実は温度が下がるとまた色が出てきます)。最近では多くの本はAmazonのユーズドなどで安く中古が買えます。あるいは、面倒くさいですがコピーを取ってそちらに書き込む手もあります。ポストイット(付箋)を貼って書き込むこともできます。Amazon Kindleのような電子書籍でも、ハイライトで色をつけることが可能です。
線の引き方
どんな高い本でも本は消耗品だと割り切って、大胆に線を書き込むと良いでしょう。慣れるまでは、線だらけ、書き込みだらけになっても構いません。場合によっては単語をぐるぐる円で囲ったり、気がついたことをメモとして書き込んでもよいでしょう。分からないところに「?」マークを書き込むだけでも良いのです。本は知識を得るための道具であって、神棚に飾るものではありません。
色に関するルールは自分で決めればよいのですが、例えば三色使うのであれば、
- 青 まあ大事(客観重要)
- 赤 ものすごく大事(客観最重要)
- 緑 自分にとっては大事(主観大切)
くらいで色分けすると良いでしょう。
青は、誰が見てもここが大事だろう、というところに引きます。最初のうちは、青は引きすぎるくらいでも良いでしょう。青を引いたところを抜き出してつなげて読むだけで、文章の内容の要約やあらすじになっているのが理想です。
赤は、誰が見ても極めてここが重要、ここがこの文章のポイントだ、というところに絞って引きます。赤はあまり引きすぎると意味がなくなるので、若干慎重に引く必要があります。最初は青を引いて、後から再検討して赤を上書きで引き直す、ということでもよいでしょう。赤を引いたところだけを抜き出して読めば、その文章が最も言いたいこと、趣旨が分かるようになっていると理想的です。
緑は、文章の本筋とはあまり関係無かったとしても、なんとなく面白く思った部分、他人にとってはともかく自分にとっては興味深い話、気の利いた言い回しやエピソードなどに自由に引きます。これが実はあなたにとっては一番重要です。